書評ー脳を鍛えるには運動しかないー

脳を鍛えるには運動しかない〜最新科学で分かった脳細胞の増やし方」脳を鍛えるには運動しかない〜最新科学で分かった脳細胞の増やし方」SPARK-the Revolutionary New Science of Exercise and the Brain.ジョンJ・レイティ

【本を手にとったきっかけ】

 以前は運動を習慣づけていたが(スポーツジムにも入会している)、しばらく運動から遠ざかってしまっていた。以前購入していたこの本を本棚から再度手にとった。

【本書を読んで得られたこと】

① 脳の基本的なメカニズムと神経伝達物質物質の関係性 学習をすることをダーウィンは「絶えず変化する環境に適応する為の生存手段」と定義していた。脳科学的な定義によると、学習とは情報を伝達するためにニューロン同士を結びつけることである。ニューロンの結合とは、電気信号がニューロンの軸索の先にある樹状突起から、シナプスを通じて神経伝達物質物質が伝達されることである。神経伝達物質物質の代表的なものは、グルタミン酸とガンマアミノ核酸と呼ばれる。グルタミン酸ニューロンの働きを活発にし、信号の連鎖反応を始めさせる。ガンマアミノ酸は連鎖反応を抑える働きがある。 神経伝達物質物質の流れや全体のバランスに作用している物質が、セロトニン、ノンアドレナリン、ドーパミンである。セロトニンは脳の機能を正常に保ち、気分、衝動性、怒り等をコントロールしている。ノンアドレナリンは注意、意欲、覚醒に影響する信号を増強させる。ドーパミンは学習、報酬、注意力、運動に関係している。 人が物事を学習する時にはどのような事が脳内に起こっているのだろうか。ニューロンの軸索に蓄積されているグルタミン酸シナプスを通じて次のシナプスに送られ、受容体の構造を変える事により電位が上昇し、グルタミン酸を磁石のように引きつける。それによりニューロン細胞核の中にある遺伝子にスイッチが入り、シナプスの材料がもっと作られるようになる。それがシナプスの可塑性と呼ばれる現象である。また、BDNF(脳由来神経栄養因子)と呼ばれる因子が、脳のインフラを維持、構築しているが、ニューロンの機能を向上させる役割も持つ。

② 運動がどのように有益な効果を脳に及ぼすかについての見識ラットの実験によると、運動により、BDNFが増えており、長く走ったラットほどその量が増えていた。また、運動によって新生されるニューロンの数にも大きな違いが見られたという。 そして、運動している間、IGF-1(インスリン様成長因子)、VEGF(血管内皮成長因子)、FGF-2(線維芽細胞成長因子)等の成長因子が、血液・脳関門を通過し、脳内で学習に関わるメカニズムを活性化することも記載されている。人類の歴史、進化の過程をみると、運動によって学習のシステムが活発になることも不思議ではない。食物を探し手に入れる必要があり、学習が必要であった。学習のためには燃料であり、食物を探しに行くという人間に刻み込まれた行動パターンの帰結のように思える。 加齢とともに脳に作用するこれらのメカニズムや、ニューロン新生は減少していくが、ストレスにさらされたり、鬱状態が長引いたりすることも原因となる。しかし、運動によって状況を改善することができるのであれば、こうした状況を改善できる道が見いだせると筆者は述べている。
③ 運動を習慣づけることの動機づけになった。運動をすることが脳に及ぼす影響は上記に記載した以外にも様々な切り口で筆者は紹介している。ストレスや不安、加齢とともにどう生きていくかなどの誰もが相対する問題に対しても運動による解決策を提示している。自分も運動を週間的にしていた時期は気分もよく、精神的にも落ち着いていることが多かったが、忙しさで運動ができなくなってから生活のリズムも崩れ、身体的にも、精神的にも低迷している状態が続いていた。現在は軽めのジョギングを1時間程度早朝に行うことを習慣に組み込んでいる。本書とめぐり逢い良かったと思っている。
【今後習得したい関連知識など】

脳の機能に関する知識・脳と精神的な疾患や、情動との関係性に関する知識など