書評ー脳はいかに治癒をもたらすかー

「脳を鍛えるには運動しかない」は、運動をすることがどのように脳に働きかけるのかについて様々な切り口から論じられたものだった。そして今回読んだのは「脳はいかに治癒をもたらすかー神経可塑性研究の最前線-」という本である。
 
    本書で取り上げられているのは様々な脳の疾患、例えばパーキンソン病や外傷性脳損傷による視覚異常、その他の様々な神経系の疾患が取り上げられており、人為的な介入方法によりシナプスの発火を促す(または抑制する)ことにより機能を回復していくプロセスが描かれている。
 
    例えば慢性疼痛を患った患者に対して、痛みを感じる脳の感覚野において、異なる感覚を連動させること(この場合は、視覚)によってシステム可塑性により痛みを感じなくなった例が挙げられている。
 
    痛みを感じる部分と視覚を司るシステムは脳内の重なる領域で活動をしているため、患者が痛みを感じたときに「視覚イメージ」を用いて痛みが消えていく様子を思い描くという。それに伴い長期的なスパンで慢性疼痛が消えていく様を描いている。
 
    パーキンソン病の患者の例では、病状の進行により身体的な活動が困難になるが、自ら意識的に歩行を制御・コントロールすることにより症状を抑えることができた例が提示ている。集中して制御することにより失われた神経系のネットワークの再配線が起こり、可塑的に回復をすることができたのだ。
  運動によりBDNF(脳由来神経栄養因子)が分泌され、学習のフィードバック機能が働くことなどは、「脳を鍛えるには運動しかない」にて記されていた内容とも合致していた。
 
    全体として印象に残ったのは脳の神経可塑性は、ホメオスタシスという自動調整の機能が人間にはもともと備わっており、本書で取り上げられている介入が、もともと人間に備わっている機能を後押ししているということだ。現状の医学は考え方として病気や病状を細かく分断した上で対処をするアプローチが主流になっている。
    これに対してホメオスタシスとは人間の体が全体として作用している中で神経可塑性が起こり、恒常的な回復に繋がる可能性を強く示唆している。
 
    まだすべての章をしっかりと読み込めてはいないが、可塑性に関しての情報量や解説・脚注なども丁寧に記述してあり、大変興味深く読みやすい。
 
    今後も脳科学神経可塑性アプローチに関する情報は定期的に追っていきたいと思わせてくれた至極の一冊となった。